お寺が廃寺になると、寺院墓地の墓を使う権利(墓地使用権)は、法人の消滅とともに消えるのが原則です。ただし、その日のうちに遺骨が処分されるわけではありません。実際には、ほかの宗教法人や公益法人が墓地の経営を引き継ぐか、遺族が改葬して遺骨を別の墓へ移すか、どちらかの道をたどります。
全国の寺院は約7万7千か寺で、住職のいない無住寺院はそのうち1万7千から2万か寺ほどあります。菩提寺が明日そうなっても、おかしくない数字です。2026年9月29日時点で確認できた統計と制度をもとに、無住寺院の数、お寺が倒産したときの法的な扱い、無縁墓が撤去されるまでの流れ、改葬の書類と費用を順に書いていきます。遺骨を守る最善の手は、お寺がなくなる前に菩提寺の状況を聞いておくことです。

住職のいない寺は全国に約2万か寺、廃寺は直近10年で279か寺
全国の寺院約7万7千か寺のうち、住職が不在の無住寺院は、推計で約1万7千か寺から約2万か寺です。数字に幅があるのは、調査の時期と数え方が違うからです。割合にすると約22%から約26%で、どちらを取っても、全寺院の2割以上が住職のいない状態にあります。宗教活動そのものを止めた不活動寺院も、2000か寺以上あると推計されています。
無住と不活動は、同じく人のいない寺でも、墓にとっての意味が違います。無住寺院は、住職がいなくても法人としては存続していて、兼務住職や本山の派遣で供養が続くことがあります。活動を止めた寺は、墓地の先行きがそれだけ心もとなくなります。
実際に消えた寺の数も出ています。中外日報に載った梶龍輔氏の論考は、浄土真宗本願寺派、曹洞宗、日蓮宗の3宗派について、1983年から2022年までの40年間に統廃合の手続きを経て消滅した寺院を数えました。
| 宗派 | 消滅した寺院(1983年から2022年) |
|---|---|
| 浄土真宗本願寺派 | 428か寺 |
| 曹洞宗 | 204か寺 |
| 日蓮宗 | 71か寺 |
| 3宗派の合計 | 703か寺 |
703か寺のうち279か寺、つまり約4割が、2013年から2022年の10年間に集中しています。年平均にすると、それ以前の30年間が約14か寺、直近の10年間が約28か寺です。ペースはおよそ2倍になりました。40年のうち最後の10年に4割が固まっているのですから、廃寺は増える方向にあります。
宗派別では、本願寺派の428か寺が全体の約6割を占め、曹洞宗の204か寺が約3割、日蓮宗の71か寺が約1割です。この3宗派だけの数字ですから、全国の寺院を合わせれば、消えた寺の数はさらに膨らみます。
全国の宗教法人17万6670法人のうち、約35.6%にあたる6万2971法人には「消滅可能性」があるという試算もあります。理由は、少子高齢化と過疎化で後継者が見つからないことと、檀信徒(檀家)が減って寺の収入が細ることの2つです。
寺院墓地の墓は、土地を買ったのではなく墓地使用権を得ているだけ
寺院墓地にある墓は、土地を買って所有しているものではありません。遺族が持っているのは寺院(宗教法人)から得た墓地使用権で、土地の所有権は寺が持ち続けます。
墓地や納骨堂を経営できるのは、自治体、宗教法人、公益法人に限られます。経営するには都道府県知事などの許可も要ります。個人や一般の会社が、自由に墓地を開くことはできません。
この制限があるので、経営主体の寺が消えたとき、墓の行き先にも選択肢が少ししかありません。次の疑問は、お寺という法人がなくなったとき、墓地使用権はどうなるのか、です。
お寺が倒産すると墓地使用権は原則消えるが、経営を引き継ぐ法人が出れば墓は続く
お寺が倒産(破産)した場合、寺が持つ土地と建物は、債権者への支払いのために換金されます。不動産である墓地も売却の対象になり得ます。さらに、宗教法人が消滅すると、墓地使用者の持つ墓地使用権も消えるのが、一般的な法的考え方です。弁護士事務所のコラムが「倒産したお寺のお墓は撤去されるのか」という問いを正面から取り上げているのも、この考え方が根にあるからです。
とはいえ、倒産の翌日に墓が撤去されるわけではありません。弁護士の解説では、墓地使用権を守る方法として、事前あるいは事後に破産管財人や裁判所と協議し、ほかの法人に墓地の経営主体を移して運営を続ける手が挙げられています。
つまり、墓は消えるのが原則で、引き継ぎ先の法人が見つかったときだけ残ります。引き継ぎ先が見つかるかどうかは遺族に選べません。ここが、寺院墓地に墓を持つ側の一番弱いところです。
宗教法人の解散では残余財産が国庫に入ることもあり、合併なら清算を避けられる場合がある
倒産ではなく、寺が自分から法人をたたむ場合は「解散」の手続きを踏みます。解散のあとに「清算」の手続きで財産を整理し、清算が終わった時点で法人としての実体を失います。文化庁宗務課は2023年12月に「不活動宗教法人対策マニュアル(改訂)」を公表し、活動していない宗教法人への対応をまとめました。
清算後に残る財産(残余財産)の行き先は、宗教法人法第50条にもとづき、次の順で決まります。
| 順番 | 残余財産の行き先 |
|---|---|
| 最初 | 規則に定めがあれば、その定めに従う |
| 次 | 規則に定めがなければ、ほかの宗教団体や公益事業のために処分できる |
| 最後 | それでも処分されなかった財産は、国庫に帰属する |
解散のほかに、同じ宗派の寺院が財産を引き受ける「合併」という手もあります。合併なら、清算の手続きを避けられる場合があります。墓の側から見れば、合併先の寺が墓地を管理し続けるかどうかが分かれ目です。
宗教法人が墓地の経営をやめるには、都道府県知事の許可が要ります。遺骨を別の場所へ移す改葬をするなら、市区町村長の許可も別に必要です。
無住寺院の墓は、住職がいなくなっても供養は続くが管理費は上がる
住職が寺を離れると、お墓の管理機能はいったん止まります。本山から年に2、3回ほど住職が派遣されて供養してくれますが、常駐ではありません。墓地の清掃のような日々の管理は、地域住民が担うことになります。
本山も手が回らない場合は、ほかの宗教法人や公益法人が墓地の経営を引き継ぎます。引き継いだ団体に払う年間の管理費は、これまで払っていた額より、ほぼ確実に高くなります。経営が続いても、遺族の負担は増えるということです。
管理費の値上がりは、年ごとに払う額の話ですから、10年、20年と積み重なります。墓を継ぐ子や孫の代まで考えると、無視できない差になります。値上がりを避けたい遺族が改葬を選ぶのは、自然な流れです。
住職がいない寺を支える仕組みに、兼務住職があります。同じ宗派の近隣の住職が法事を請け負い、一人の住職が複数の寺院を受け持つ形です。2021年の文化庁の調査では、仏教系寺院は76,630寺で、そのうち2割から3割にあたる約1万8千寺が兼務寺院だといいます。住職が常駐していなくても、兼務住職や本山の派遣で、最低限の供養は続けられている寺が多いのです。
後継者が決まっている寺は44%から55%、今の菩提寺も安泰とは言えない
いま住職のいる菩提寺でも、10年後は分かりません。浄土真宗本願寺派の2021年の調査では、「後継者が決まっている」寺院は全体の44%でした。浄土宗は52%、日蓮宗は55%で、ほかの宗派もほぼ同じ水準です。
半数近い寺で、次の住職が決まっていません。後継者のいない寺は、住職が高齢になったり亡くなったりした時点で、無住寺院に変わります。その先に、ここまで書いた兼務、経営の引き継ぎ、合併、解散のどれかが待っています。
菩提寺に電話をかけて、後継者は決まっているのかと聞くのは、気が引けるものです。それでも、聞かずに待つより、聞いておくほうが遺族に選択肢が残ります。
管理費を払わない墓は1年間の公告のあとで撤去され、遺骨は合祀される
寺院墓地で管理費が長く払われず、連絡もつかない墓は、無縁墓(無縁墳墓)として整理されることがあります。墓地、埋葬等に関する法律施行規則第3条は、無縁墳墓等を「死亡者の縁故者がない墳墓又は管理者が知れない墳墓」と定めています。総務省の調査では、全国の公営墓地の58.2%に無縁墓があると報告されました。
無縁墓を改葬するには、次の手続きを踏む決まりです。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 官報への掲載 | 改葬の公告を官報に載せる |
| 現地での掲示 | 墓地の入口に掲示し、該当するすべての墳墓に立札を立てる |
| 申し出の受付 | 死亡者の本籍と氏名、墓地使用者、縁故者、墓に関する権利を持つ者に、1年以内の申し出を求める |
| 公告の期間 | 官報への掲載と立札の掲示は1年間続ける |
| 撤去 | 1年たっても申し出がなければ、墓を撤去して遺骨を移す |
改葬許可の申請には、無縁墳墓の写真と位置図、申し出がなかったと記した書面、官報の写し、立札の写真などが要ります。
申し出がなかった場合に撤去するという順序ですから、公告の1年間は、遺族が名乗り出る余地が制度の上で用意されています。管理費を払っていない墓の遺族は、官報や墓地の立札を、自分で目にして気づく必要があります。
撤去された墓の遺骨は、合祀墓(合同供養塔)に移されるのが一般的です。合祀されると、ほかの人の遺骨と混ざるので、あとから取り出すのは難しくなります。個別の供養もできません。だから、無縁墓と判断される前に、自分の手で改葬先を決めておく価値があります。
改葬は令和4年度に151,076件で過去最高、実行には市区町村長の許可が要る
厚生労働省の衛生行政報告例では、令和4年度(2022年度)の改葬件数は151,076件でした。前の年度より約3万2000件多く、過去最高を更新し、初めて15万件を超えています。前の年度は12万件弱でしたから、1年で3割近く増えた計算です。この10年で約1.7倍、四半世紀ではおよそ2倍に増えました。確認できた最新の集計は令和4年度分です。
年間15万件を超える改葬のなかには、寺院墓地から出る人も、霊園から出る人もいて、寺の廃寺だけが理由ではありません。ただ、寺院墓地で使用権を返す人が増えるほど、寺の収入は細ります。収入が細れば、住職の後継ぎはさらに見つかりにくくなります。廃寺の増加と改葬の増加は、同じ流れの表と裏です。
改葬をするには、墓地、埋葬等に関する法律第5条により、市区町村長の許可が要ります。許可を取らずに遺骨を動かすと、新しい墓地に受け入れてもらえなかったり、元の墓地の管理者ともめたりするおそれがあります。
墓じまいと改葬は、似ていますが別の言葉です。墓じまいは、今の墓を撤去して更地にし、使用権を墓地の管理者に返すことを指します。改葬は、遺骨を別の墓へ移す「墓の引っ越し」のことです。実際の手続きでは、この2つが続けて行われるのがふつうです。
廃寺で埋葬証明書がもらえないときは、まず市区町村の改葬担当課に相談する
改葬許可証をもらうには、次の3つの書類がそろっている必要があります。
| 書類 | 中身 | 発行する人 |
|---|---|---|
| 埋葬証明書(埋葬許可証) | 現在の墓地に誰が埋葬されているかを示す | 現在の墓地の管理者(民営霊園や公営墓地なら管理事務所、寺院墓地ならお寺) |
| 受入証明書 | 新しい墓地の契約を示す | 新しい墓地(改葬先)の管理者が契約時に出す |
| 改葬許可申請書 | 役所に出す申請の書類 | 各自治体(様式は自治体ごとに違い、ホームページから入手できる場合もある) |
埋葬証明書と受入証明書がそろったら、現在の墓地がある市区町村の役所に、改葬許可申請書を出します。受入証明書は新しい墓地との契約後に出るので、行き先を決めないまま墓じまいだけを進めることはできません。
廃寺や住職不在で、埋葬証明書を出してくれる人がいない場合があります。古い墓では、管理者が代替わりしていたり、記録が残っていなかったりします。そのときは、墓地の所在地を管轄する市区町村の改葬許可の担当課に相談してください。状況に応じた対応を案内してもらえます。自分で判断して遺骨を動かす前に、役所の担当課へ電話を1本入れるのが先です。
墓じまいの総額は30万円から150万円、離檀料は5万円から30万円が目安
墓じまいの費用は、墓の大きさ、遺骨の数、移し先で大きく変わります。紹介されている目安は次のとおりです。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 墓石の撤去 | 1平方メートルあたり10万円から15万円 |
| 埋葬証明書の発行手数料 | 無料の場合もあれば、数百円から1000円程度かかる場合もある |
| 行政手続きの手数料 | 自治体によって異なり、かからない場合もある |
| 墓じまいの総額 | 30万円から150万円ほど |
| 離檀料 | 5万円から30万円 |
寺院墓地から墓じまいをすると、檀家をやめる(離檀する)ことになります。離檀料に法的な支払い義務はありませんが、慣習として定着しています。相場は、ふだんの法要で渡すお布施の2倍から3倍で、金額にすると5万円から30万円と幅があります。
寺の側の事情で、遺族に大きな負担がかかった実例もあります。福岡県に住む70代の男性は、熊本県の寺院の敷地内にある納骨堂に、先祖代々の遺骨を納めていました。熊本地震で納骨堂が倒壊し、建て直されたあとに、数百万円の新しい契約料を求められました。これをきっかけに親族で話し合い、墓じまいを決めたそうです。
離檀の話し合いが難航しそうなときは、寺院と檀家の間のトラブルを事例形式でまとめた書籍『事例式 寺院・墓地トラブル解決の手引』(葬研、2023年8月24日発行)や、寺院と墓地の問題に詳しい弁護士への相談が手がかりになります。
墓じまいの手続きは改葬先探しから始まり、役所の許可で終わる
ここまでの書類と費用を、動く順番に並べ直します。最初に決めるのは改葬先です。新しい墓地と契約しないと、受入証明書が出ないからです。次に、現在の墓地の管理者へ埋葬証明書を頼みます。寺院墓地の場合、この相手は菩提寺の住職ですから、ここで離檀の話が始まります。
2つの証明書がそろったら、改葬許可申請書を添えて、現在の墓地がある市区町村の役所に出します。許可が下りたあとで遺骨を移し、墓石を撤去して更地に戻し、墓地の使用権を返します。
熊本の実例を、この流れに重ねてみます。先祖代々の遺骨を納めた納骨堂で、建て直し後に数百万円の契約料を求められた遺族は、親族で話し合って墓じまいを決めました。墓じまいの総額の目安は30万円から150万円です。数百万円の契約料は、その目安を大きく上回ります。寺の事情で遺族の負担が急に跳ね上がる場面では、墓じまいのほうが安く済むこともあります。
永代供養も、その寺が続く間という条件つきで、合祀は取り出せない
墓じまいのあとの供養先として、永代供養を検討する人は約9割にのぼるという調査結果が報じられています。永代供養は、遺骨と位牌の供養や管理を寺院や霊園に任せる方法です。永遠に続くという意味ではなく、その寺院や霊園が続く間、という意味です。
寺院は歴史が長く、民間企業に比べて運営のリスクが低いとされています。それでも、永代供養を頼んだ寺自体が廃寺になる可能性は、ここまで見てきた数字のとおり、ゼロではありません。
永代供養には、一定期間は個別に安置されるものと、最初から合祀されるものがあります。合祀は、いったん納めると遺骨を取り出せません。個別に手を合わせたい家族がいるなら、契約前に安置の期間と、期間が過ぎたあとの扱いを聞いておく必要があります。
遺骨を守るために今やることは、菩提寺への確認と改葬先の下見の2点
寺院墓地の墓を継ぐときは、名義の変更に加えて、檀家の引き継ぎも要ります。手続きは、管理している菩提寺に問い合わせて進めます。承継者を決めるついでに、住職はいるか、兼務寺院か、後継者は決まっているかを、そのときに聞いておくのが早道です。
住職が代わったときも、聞くタイミングになります。寺院墓地の承継は名義の変更だけで終わらず、檀家としての関係も次の代に引き継ぐ形になるからです。承継する子や孫が、菩提寺の住職と顔を合わせておく機会にもなります。
菩提寺の答えが心もとなければ、改葬先を先に探しておきます。受入証明書がないと改葬許可は出ないので、行き先の決定が手続き全体の起点です。廃寺になってから動くと、埋葬証明書を出す人がいない状態で役所に相談するところから始めることになります。
お寺がなくなったあとの遺骨は、経営を引き継ぐ法人がいれば墓に残り、いなければ無縁墓として整理され、合祀墓に移ります。どちらになるかを遺族が決められない以上、自分で選べる時期に動くほうが、遺骨の行き先を自分で決められます。自分は、菩提寺に電話をかけるところから始めるのがいいと考えます。








